広告賞が様変わりしてきています。言い換えれば、広告という定義そのものが変化しているのかもしれません。皆さんがこれまで思い浮かべていた新聞・雑誌・ラジオ・テレビ・OOH(屋外広告)、そしてインターネット広告などの旧来のカテゴリー。もちろん、個々のジャンルで卓越した表現が評価され受賞する作品は今も健在ですが、どうやら現在、クライアントおよびクリエイターが望む受賞は、これまでとは少し違ったものがあるようです。いったい何が起こっているのでしょうか。広告賞の最近の傾向と、企業が今目指すコミュニケーションについて考えてみましょう。
統合型マーケティングコミュニケーションの台頭
かつて広告の花形といえば、新聞広告やテレビCM、あるいはこれらのメディア出稿を組み合わせて一気に消費者へアプローチする「キャンペーン」のような広告手法でした。広告賞においても、それら個々の表現の斬新さや優劣に基づいて受賞作が決められてきた経緯があります。
しかし、ここ20年ほどのデジタル技術の急速な発展や消費の多様化により、広告業界ではIMC(統合的なマーケティング手法)を用いることが重要だと提唱され始めました。つまり、メディア上の広告だけでなく、実店舗、ホームページ、カスタマーセンター、パンフレット、チラシ、SNSでの発信、顧客情報など、企業が持つアセットを効率的に組み合わせ、消費者にコンタクトしていくことで購買を促進しようという考えです。その結果、広告賞側も従来のカテゴリーを様々に進化させ、優れたコミュニケーションを正しく評価しようという機運が高まりました。例えば、世界で最も有名な広告賞の一つであるカンヌ広告賞は、かつて「インターナショナル・アドバタイジング・フェスティバル」という正式名称でしたが、2011年からは「カンヌ・ライオンズ・インターナショナル・フェスティバル・オブ・クリエイティビティ」に変更しました。それまでの名称から「広告」を外し、従来の「広告」の概念を超えた多様なクリエイティビティを評価し始めたのです。
【Tips】 統合型マーケティングコミュニケーションが主流となる中、広告賞の評価に変化が現れた。
受賞作品の傾向
また、受賞作品のテーマについても最近の傾向が見られます。その一つは、「社会課題への取り組み」をテーマとする作品の増加です。持続可能な社会を目指す企業の取り組みや、ジェンダー平等、人種差別問題、環境保護といった社会的な問題をテーマにした作品が、特に高く評価される傾向があります。広告の表現のユニークさだけでなく、企業の社会に対する活動そのものや、有益な商品の開発ストーリーに光が当てられるようになったと言えるでしょう。
さらに、そういった活動を紹介する応募作品ビデオには、購買者の増加やアクセス数、再生回数など、非常に具体的な成果が数値として掲示されることが多くなっています。これらの「企画と活動」の独自性とその「成果」をパッケージにした応募は、審査においても重要な判断材料になっているようです。つまり、消費者の評価が広告賞の審査に間接的に影響しているとも言えます。
【Tips】企業の「社会課題への取り組み」がより評価され、「企画と活動」と「成果」も重要な評価基準となる。
いくつかのキーワードで言うなら
さて、これらの受賞作品の傾向を広告業界のキーワードでカテゴライズすると、「デジタル・ソーシャルメディア広告」「サステナビリティ広告」「パーパスドリブン広告」「インクルーシブな表現」といったものになるでしょう。(各賞にこれらの応募カテゴリーが実際にあるわけではありません)
「デジタル・ソーシャルメディア広告」は、SNSの急速な発展に伴い、その影響力を最大限に活用したアプローチです。インフルエンサーマーケティングやユーザー参加型のコンテンツ、バイラル性を狙った動画広告などがこのカテゴリーで多く見られます。これらの広告は、若年層の消費者へのリーチが強く、エンゲージメント率の高さが評価のポイントとなります。
「サステナビリティ広告」は、社会課題に対する企業の持続可能な取り組みをPRする広告が対象となります。気候変動やプラスチック廃棄物の削減、エコロジカルな製品設計など、環境への配慮を訴求する内容で、このカテゴリーでの受賞が注目されています。今やサステナビリティは消費者の購買意識にも大きな影響を与えており、環境に配慮した企業姿勢をアピールすることが求められています。
「パーパスドリブン広告」は、ブランドや企業の社会的意義や使命を前面に押し出す広告です。単なる製品の売上向上を目的とするのではなく、社会にポジティブな影響を与えることを目指すキャンペーンが評価されます。このカテゴリーでは、より本質的な企業の哲学や価値観がしっかりと伝わる広告が求められ、ブランドの信頼性や認知度の向上につながるとされています。
「インクルーシブな表現」の重要性も増しています。その背景には、多様性と包摂性を尊重する社会の成熟があります。ジェンダーの多様性やLGBTQ+の権利向上、障がい者への配慮など、あらゆる人々を平等に扱う社会を目指す動きが広告にも反映されています。これにより、従来の固定観念に囚われない新しい視点の広告が求められ、受賞に至るケースが増えています。広告賞は、個々の広告表現への評価にとどまらず、広告主である企業そのものの理念や行動をも評価するようになってきたと言えるでしょう。
【Tips】今時の広告賞は「デジタル・ソーシャルメディア」「サステナビリティ」「パーパスドリブン」「インクルーシブな表現」がキーワード。
広告電通賞の事例
実際に日本の広告賞の中でも最も歴史のある「広告電通賞」を例に見てみましょう。この賞も様々な社会の変遷の中で受賞カテゴリーを変化させてきています。従来のプリント広告、オーディオ広告、フィルム広告、OOH広告といった部門とは別に、現在は「ブランドエクスペリエンス」「エリアアクティビティ」「イノベーティブ・アプローチ」「SDGs特別賞」などが加えられています。まさに前述した世界的な広告評価の傾向が反映されていると言えます。
実際の受賞作を見てみると、ほとんどの作品が単なる商品訴求にとどまらず、社会的課題の解決や企業の哲学、あるいはデジタル技術を用いて購買欲を喚起する新しい手法をアピールする内容になっています。近年の受賞例として、企業ではなく地方自治体が受賞したものがあります。その活動は非常にユニークでした。
地場産業に着目したこのシティプロモーションは、郵便ポストや公衆電話など、普段街中で見慣れた公共機材をその商品のデザインに変えて設置し、街自体をリノベーションするというものです。ポストも公衆電話も実際に使用できるものにした点も大きなポイントです。また、市内の学校でもその商品を授業の一環として取り入れています。これらの活動はテレビやSNSでも大きく取り上げられ、観光客誘致の起爆剤として機能していると言われています。これはもはや広告という範疇を超えたシティプロジェクトと言えるでしょう。
【Tips】カテゴリーは時代とともに変化。地方自治体と一体となったシティプロジェクトが賞を獲得。
まとめ
広告業界において、広告賞の受賞はそのクリエイティブの評価を大きく左右する要素です。欧米の主要広告賞は、世界中の広告クリエイターたちが目指す頂点と言えます。一方で、企業の視点から見ると、広告賞が商品の売上や企業の評価にどれほど貢献するのか、その意義について懐疑的に思われる向きもありました。しかし、時代を経て消費者の意識が高まり、デジタルをはじめとする様々なテクノロジーの革新を受容する中で、広告賞自体も進化してきたと言えるでしょう。単なるクリエイターズコンペではなくなり、より企業の存在価値を訴求する「企画と活動」そして「成果」がしっかりと評価されているように感じます。企業の目的と広告賞の評価の乖離が徐々になくなってきているのです。そう、広告賞は広告というジャンルを超え始めています。