パラスポーツの現在地 ~『パリ』を通じて読み解く企業の関わり方

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パラスポーツの現在地 ~『パリ』を通じて読み解く企業の関わり方

パリオリンピックに続き、2024年8月28日から9月8日まで、12日間にわたりパリパラリンピックが開催されました。今回は時差の問題から深夜に放送されることが多く、またオリンピックとは異なり中継はNHKのみでした。民放各局やTVerなどでは視聴できなかったため、多くの人がネットニュースやテレビのスポーツコーナーで結果を知ることが多かったのではないでしょうか。そんなパリパラリンピックですが、ニュースだけでは見えてこない企業の関わり方について考えていきましょう。

パラスポーツの現在地

「パリ大会はあらゆる面でパラリンピックの今後の指標になる」
国際パラリンピック委員会(IPC)のパーソンズ会長がこう締めくくったように、コロナ禍を経て、制限のない大会に戻った今大会では新しい記録がパラリンピックの歴史に加わりました。それは、史上最多の参加国・地域数であり、難民選手団を含めるとその数は実に168にのぼります。これは、2012年のロンドン大会の最多数164を3大会ぶりに上回るものです。

チケットの販売数では、前述のロンドン大会の270万枚に次ぐ250万枚で、史上2番目となりましたが、その盛り上がりはロンドン大会に匹敵するものとなりました。また、参加国や地域の数、チケット販売といった数字以上に、冒頭のIPC会長の言葉が示しているのは運営面の成功です。大会は非常に組織的に運営され、大きな問題や混乱が起こらないよう配慮されていました。さらに「いかに来てくれた観客を楽しませるか」についても工夫が施されていました。

ご存じの方もいるかもしれませんが、オリンピックは「クリーンベニュー政策(Clean Venue Policy)」を掲げ、競技エリア内では公式スポンサーであっても広告宣伝や露出ができないことになっています。一方で、パラリンピックにはそのルールは適用されません。従って、より進化したプロモーションがスポーツエンターテインメントの一環として会場で行われていたのです。

その中には、観客の感情に寄り添うプロモーションや、企業と大会、そして観客との新しい関係性を見て取れるものが多くありました。

【Tips】
パラスポーツはパリパラリンピックによってその価値が高められ、企業プロモーションの観点でも新しい事例が多く見られました。

パラスポーツに対するこれまでの企業の関わり方

もともと、第二次世界大戦後に障がいを抱えた人々のリハビリや、身体に障がいのある人々が強さと自尊心を持つための治療手段としてスポーツが活用されたことがパラリンピックの起源です。その支援手段として、最初は寄付を求めることから始まり、長い間そうした時代が続いていました。あるパラスポーツの競技団体の会長は、昔は募金箱を持って企業や団体を回っていたと語っていました。

寄付の次の段階として、「企業として一定の利益を社会に還元する」という考え方が顕著になりました。プロモーションではなく、CSR活動の一環として支援するケースが増えました。そこから一歩進んで、プロモーションの中で適切に活用することが今の段階です。整理すると、寄付、CSR、そしてプロモーション用コンテンツとしての活用という順番で推移してきました。もちろん、次の段階になったからといって前のものが消えるわけではなく、寄付、CSR、プロモーションはそれぞれ共存しています。

では、プロモーションとしてどのように活用されているのでしょうか。具体例として、オリンピック選手の中に車いすラグビーや車いすテニスの選手が出演するテレビCMなど、パラスポーツの選手を広告に積極的に起用したものがあります。プロモーションでパラスポーツの選手を起用する流れは、2021年の東京大会の時に、基本的にはすべての大会スポンサーがオリンピックとパラリンピックの両方を支援する仕組みが整ったことが一因とされています。しかし、それだけでなく、多様性を認め合い支え合う社会の風潮がその流れを後押ししてきたと考えられます。

【Tips】
パラスポーツに対して企業は、寄付、CSR、そしてプロモーション用コンテンツとしての活用という順番で推移してきましたが、社会全体がプロモーションでパラスポーツの選手を使う流れを後押ししています。

パリ大会を通じて見えてきた現地でのパラスポーツに対する企業の関わり方

日本からはなかなか見えてこなかったものも、パリ大会の現場では見えてきました。ここではその中から代表的なものを二つ紹介します。

まず一つ目は、感情に寄り添った公式スポンサーの施策です。これは、車いすバスケットボールの会場で実際に行われていたもので、白熱した試合の途中にMCが観客を盛り上げ、会場のカメラと大型ビジョンと連動しながら「今日一番のファン」を見つけるというものでした。試合を、そして選手を応援するボルテージを上げることは、会場全体の一体感を生むうえで重要です。その一体感は、選手のパフォーマンスを引き出すことにもつながります。

続いて二つ目は、観客のためになる施策を上手に作り、好感度を上げている例です。公式スポンサーがIOCやIPCをサポートしながら制作したアニメーションが挙げられます。オリンピックやパラリンピックでは、普段馴染みのない競技を見ることがあります。特にパラリンピックでは障がいを持った選手が公平に参加できるように競技ルールがデザインされていますが、初めて見る人には理解が難しいこともあります。こうした課題に向き合って作成された動画は、大会の公式ページだけでなく、会場の大型ビジョンでも繰り返し流され、観客や視聴者にとって非常に有益なものでした。

【Tips】
感情に寄り添う会場ビジョンの活用例や、慣れない競技を観る観客のために作られた動画など、今までのパラリンピックにはなかったプロモーションがパリ大会では見られました。

パラスポーツに対するこれからの企業や社会の関わり方の可能性

最後に、パラスポーツに対する今後の企業や社会の関わり方について考えていきましょう。そのヒントは、車いすラグビーの会場にありました。会場はパリにもかかわらず、日本人で埋め尽くされていました。それは、日本がメダルを狙えるからや、競技そのものが面白いといった理由に加え、選手の所属先が応援に来ていることも一因と考えられます。

実は、車いすラグビーの日本代表選手は、その所属企業であるグローバルに活躍する大手企業のサポートを受けており、そのネットワークを通じて応援の輪も広がっていました。中には社員を連盟に派遣し、マネジメントの面でも会社としてコミットして支え、現地でも熱い声援を送っていた日本企業もありました。

与えられた環境や条件は健常者に比べてはるかに厳しい中で、懸命に努力し何かを掴み取ろうとするパラスポーツ選手の姿には、私たちの感情が大きく揺さぶられます。特に、懸命に努力する選手が自分に近い存在であればあるほど、応援にも熱がこもります。たとえば、同じ国籍や出身地、同じ学校の選手の場合、それが同じ会社の人であれば、さらに親近感が増します。

これは、会社の一体感を醸成することにもつながります。どこの誰か分からない選手が頑張る姿よりも、身近でハンディキャップを抱えながら懸命に努力する姿に心を動かされるのです。

現在、日本での企業の障がい者法定雇用率は2.5%です。つまり、従業員を40人以上雇用している事業者は障がい者を一人以上雇用しなければなりません。このようなルールが後押しとなり、企業によるパラスポーツ選手の雇用が増えています。

ただし、それは義務としてだけでなく、障がい者を雇用することで得られる新しい価値にも目を向けてほしいと思います。それは、一体感をもたらす力に加えて、多様性を尊重する社会を考える上で非常に重要な要素です。

多様性の先にあるのは受容性です。多様性を受け入れられる企業は、さまざまな視点で物事を考えることができ、ビジネスにおいても大きな力となります。さらに、パラスポーツ選手たちはその活躍によって一体感を醸成し、一人一人の頑張る力を後押ししてくれる存在になり得ます。

企業や社会がこのことを理解し、さらにパラスポーツや選手、ひいては障がい者に対する関わり方を考え、変化を推進していくことで、社会はさらに良くなっていくのではないでしょうか。

【Tips】
パラスポーツ選手がその会社にいることによって、一体感を醸成し、一人一人の頑張る力を後押ししてくれる存在になり得る。多様性を受け入れる企業は、様々な視点でビジネスを考えることができ、そのことが力となる。

まとめ

国際パラリンピック委員会(IPC)のパーソンズ会長はパラリンピックの閉会式で「多様性と違いは人々を分断するのではなく、結束するのです」と情熱を持って語りかけましたが、パラリンピックやパラスポーツの大会ではその姿を数多く見ることができます。

多様性を理解し、それぞれの個性を受け入れ合うことで、社会がより良くなり、一人一人が生きやすくなる未来に向けて、パラリンピックやパラスポーツの選手が私たちに多くのことを気づかせてくれることでしょう。

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