昨今話題の生成AIの話をします。2022年8月に画像生成AIであるStable Diffusionがリリースされ、2023年11月にはChatGPTがリリース。ここ数年は、その性能の高さに多くの人々が驚愕しました。本記事では、これらの生成AIが、実際の広告制作の現場で、どう活用されているかについて話します。
生成AIとは?
まず、生成AIについておさらいしておきましょう。実は、生成AIとは明確な定義がある訳ではありません。従来の未来予測や、画像認識、文書分類といった予測・判別系のAIに対して、画像や文書そのものを出力するものが生成AIと呼ばれているようです。これまでにもそのようなAIが無かった訳ではないのですが、近年その性能が人間と遜色のないレベルになってきたため、改めてこれらを生成AIと呼ぶようになりました。具体的に生成できるものとしては、画像、動画、文書、楽曲など、さまざま。従来、創造行為は人間だけのものと考えられてきましたが、それがAIにもできてしまったということが、世の中に大きなインパクトを与えました。
【TIPS】
生成AIとは、クリエイティブなAIです。
広告クリエイティブにおける生成AI
それでは、広告クリエイティブにおける生成AIの活用について見ていきましょう。ここでは、「生成AIを活用した個別の広告事例」と「生成AIによる汎用広告生成ソリューション」に分けて考えたいと思います。
生成AIを活用した個別の広告事例
2023年は生成AIを活用した広告が盛り上がった一年だったと言えます。日本で話題となったものを挙げるとすれば、「パルコ」と「伊藤園 お~いお茶」のキャンペーンではないでしょうか。パルコは、実際のモデル撮影は行わず人物から背景にいたるまで、全て生成AIで生成しているそうです。ナレーションや音楽までも生成AIがつくったもので、全てが生成AIと言っても過言ではありません。見た目のクオリティも高く、生成AIが広告のクオリティに耐えうるものだということを証明した作品と言えるのではないでしょうか。
また、「お~いお茶」のTVCMは、日本で初めてAIタレントを起用して話題となりました。AIタレントは、生成AIによって作られた、全く実在しない架空のタレントです。AIなので、スケジュールの調整も必要なく、いつでも出演することが可能です。そして何より、生身の人間ではないので、不祥事を起こすことのないタレントと言えます。今後も、一定の需要がありそうですね。
海外の事例も見てみましょう。バーガーキングはハロウィンのキャンペーンで生成AIを活用しました。しかも、海外のキャンペーンらしく、生成AIの活用方法もちょっと変わっています。生成AIは、時に不完全な画像を生成することがあるのですが、こういった画像を利用して、いかにもハロウィンらしいグロテスクな気味の悪いハンバーガーと人間の画像を生成し、広告にしました。この様に、生成AIの登場後、広告クリエイティブにも多くの活用事例が誕生し、それは広告表現の幅を大きく広げるものになりました。
生成AIによる汎用広告生成ソリューション
それでは、生成AIがあれば、どんな広告でも一瞬でできてしまい、クリエイターが仕事を奪われることになるのでしょうか。実際に、キャッチコピーやバナー広告を生成するツールは、生成AIブーム以前から存在していました。電通では、2017年にAIコピーライターAICOをリリースし、AIでキャッチコピーを生成する試みを行っています。その後、バナー広告を生成するAdvanced Creative Makerをリリースしました。またキャッチコピー生成ツールとしては、ELYZA PencilやCatchy等のサービスも登場しています。キャッチコピーは、短い言葉の組み合わせであり、比較的生成が容易なためか、その他の広告生成ソリューションに比べて、比較的多くのサービスが存在しています。これらは主に、デジタルマーケティングの領域で使われ、人間が一つ一つ広告文を書くことに比べると、クリックやコンバージョン効率の最適化プロセスを高速に回すことができるのがメリットです。現在では、ChatGPTも同様に使われています。一方で、広告画像や広告動画そのものを自動で生成するソリューションは、まだあまり無いようです。このように、現在の生成AI の進化をもってしても、広告を自動生成することは難しいと言えます。クリエイターの仕事が奪われるという記事はたくさん出ていますが、いまのところ実際にそうなったという話は聞いたことがありません。
【TIPS】
生成AIは、新しい表現をもたらす一方で、クリエイターが不要になる訳ではなさそう。
広告クリエイティブにおける生成AIの課題
それでは、生成AIには、どんな課題があるのでしょうか。その一つに生成AIは「狙って生成ができない」ということが挙げられます。画像生成AIを使ったことがある人はわかると思いますが、画像生成AIや動画生成AIに対して言葉(プロンプト)で指示をしても、なかなか思った通りに生成することができません。これが広告クリエイティブではやっかいなのです。昔流行ったスクリーンセーバーの画像であれば、どんな画像でもクオリティの高いものであれば採用することはできます。一方で、広告クリエイティブは「目的芸術」と呼ばれる様に、商品やサービスを売るという目的があり、その目的にかなったものでなければ成立しないのです。広告にはクライアント毎にブランドのトーンやマナー(トンマナと言われる)があり、それに合わせる必要もあります。ある会社の広告で、ブランドカラーが赤なのに、青を基調とした表現になってしまったら、それが採用されることは少ないでしょう。
また、著作権の問題もあります。現在の生成AIはインターネット上の文書や画像を学習して作られています。この中には、著作物の文書や画像も含まれており、これらを学習することで意図せず著作権違反を犯してしまう可能性があることが問題視されています。つい先日、アニメ音楽のイベントのチラシに生成AIが使われていたため、著作権問題に敏感なアニメファンが、このことを指摘し問題になっていました。さらに、技術的にもまだまだ難しいところがあります。いまの生成AIは言語で指示をしますが、言語ですべてを表現できるかと言うと、そうではありません。文字通り「言葉で言い表せないような」画像をどうやって出力するかは今後の課題と言えます。動画に関しては、短い動画を生成することはできるものの、CMの様に起承転結のストーリーがある動画を、一貫したトーンで生成することは難しいと言われています。AIの進歩は本当に速いので、数年で状況が変わることは十分あり得る話ですが…。
【TIPS】
生成AIは、まだ万能ではないことを理解しておく必要があります。
まとめ
これまで見てきたように、生成AIが登場し、それによって新しい表現が生まれ、広告クリエイティブの世界を広げました。従って、広告クリエイティブにとって、生成AIは、これまでにない表現を作り出す可能性を秘めた、素晴らしいツールだと言えます。一方で、まだ生成AIだけでは、広告制作のすべてを自動化するに至っていません。また、そのようなことが可能になったとしても、すべてが自動で生まれるような広告が他の広告と差別化でき、広告として価値を持てるかどうかは定かではないと思います。そうすると、生成AIというツールをどう生かすかは、やはり広告クリエイター次第です。「生成AIに広告クリエイティブが作れるか」というよりは、「広告クリエイティブは生成AIをどう生かすか」の視点が大事なのかもしれませんね。