ここ数年ESGとかESG投資って言葉を聞くことが多くなりましたよね。なんとなく、エコで環境にやさしくて、ということは分かるのですが、分かったような気になっているだけで、正確なところは案外分かっていなかったりするのではないでしょうか?今回はこのESGを分かりやすく解説して、どうビジネスに活かしていくかを考えたいと思います。
もともとのESGの成り立ちとは?
ここ数年、温暖化の影響もあり、とても暑い夏が続いています。毎年のように過去数十年で一番、みたいなデータが公表されますが、温暖化ガスや化石燃料により気候変動はまったなしの状態になっているのは、皆さんご承知の通りです。
そうした問題も含めて対応していくためにSDGsという考え方、つまり「持続可能でよりよい環境をみんなで協力して作っていこう」という考え方が2015年に出てくるのですが、その前身は、主に途上国の最貧困層の状況改善を目的としたミレニアム開発目標(MDGs)で、2000年の国連ミレニアムサミットで制定されました。
MDGsの後継として2015年の国連サミットで採択されたのがSDGsです。SDGsは2030年までに持続可能でよりよい世界を実現するための17のゴール、169のターゲットで構成され、様々な分野の目標が網羅されています。
ESGはそんな国際的な潮流の中で、2006年に国連のアナン事務総長(当時)が提唱した責任投資原則(PRI)の中で、最初に使われたと言われています。PRIは責任投資を「環境(Environment)」「社会(Social)」「ガバナンス(Governance)」の要因(ESG要因)を投資決定やアクティブ・オーナーシップに組み込むための戦略及び慣行と定義しています。
すごくシンプルに言ってしまうと、環境や社会のために寄与し、企業統治が健全になされている企業を評価するのが、責任のある投資の考え方だ、ということを発表したのです。その責任のある投資の先にあるのが、持続可能でよりよい世界を実現するという、SDGsでもESGでも共通する目標です。
【Tips】
・ESGは2006年に国連のアナン事務総長(当時)が提唱した責任投資原則(PRI)の中で最初に使われたと言われ、PRIは責任投資を「環境(Environment)」「社会(Social)」「ガバナンス(Governance)」の要因(ESG要因)を投資決定やアクティブ・オーナーシップに組み込むための戦略及び慣行と定義している。
・責任のある投資の先にあるのが、持続可能でよりよい世界を実現するという、SDGsでもESGでも共通する目標。
企業はどう対応していけばよいか?
ESGは投資家、つまりステークホルダーとなる株主に対する責任のある投資の原則ということで制定されました。企業は形式としては、株主に委託された代表者が経営を行っているという建付けになりますので、投資家が目指す考え方を企業が体現していく必要があります。こうして経済活動や企業の力も活用しながら社会を持続可能でより良いものにしていく、ということが、しだいに広まっていきました。この考え方が日本でも広く使われ、認知されてきたのは、感覚的にはここ5~6年のことだと思います。
企業は自社の利益と経済活動だけを優先するのではなく、目指すべき大きな目標に対して貢献していくことが求められる中、どう対処していくのがよいのでしょうか?
最初の段階は、リスク対応なのかもしれません。つまり、環境や社会に配慮していないと思われてしまうと、投資家のみならず、顧客や取引企業に逃げられてしまう。従って何らかの対応をしなければいけない、という消極的な理由によるリスク対応です。これも最初の段階としては必ずしも悪いわけではありません。
次の段階が、メッセージとして環境対策や社会に対する貢献を明確に打ち出す積極的なリスク対応です。企業のHPの代表挨拶などを見ると、こうした表明をしているところが大半ですが、今や一つの重要な規定演技になっている気がします。
そして、最後の段階は、社会課題を自ら解決する事業やサービス、製品を創り出していくことです。当然、環境や社会に直接的に貢献する事業を創出できている企業は、市場からも評価され、株価も上がります。
2020年10月26日、当時の菅首相による所信表明演説では「積極的に温暖化対策を行うことが、産業構造や経済社会の変革をもたらし、大きな成長につながる、という発想の転換が必要です」と宣言したことが、経済界では驚きを持って受け止められました。ESGに対応することが義務ではなく、新しいビジネス創出のチャンスだと捉えることの重要性が強調された瞬間でもありました。
では、具体的にどんな企業がこうした取り組みに成功していると言えるのか、次の項では、身近な例を挙げて、自社がESGを考えるためのヒントにしていきましょう。
【Tips】
・責任投資原則(PRI)が制定されたことにより、投資家が目指す考え方を企業が体現していく必要があるため、経済活動や企業の力も活用しながら社会を持続可能でより良いものにしていくということが、しだいに広まってきた。
・2020年10月26日、当時の菅首相による所信表明演説で、ESGに対応することが義務ではなく、新しいビジネス創出のチャンスだと捉えることの重要性が強調された。
ESGを強く意識した企業による具体的な取り組み
スターバックスnonowa国立店では、聴覚障がいのある人たちが中心となって接客を行っています。「サイニングストア」として2020年にオープンしたこの店は、聴覚に障がいのあるパートナーが手話や筆談などのコミュニケーションでお客さんと関わることで、本来持っている力を発揮する機会を提供し、その姿にお客さんや地域に、そして将来の世代に良い影響を与える存在となっています。
障がいを抱える方が多く働いているスターバックスはパートナーの採用の際、障がいのあるなしに関わらず、スターバックスの価値観に共感して取り組んでくれる人を重視しています。そんなスターバックスには「チャレンジパートナーサポートプログラム」という制度があり、必要に応じて「コーチ」と呼ばれるパートナーが、障がいのある方の個性や特性に寄り添って、ともに業務に取り組んでいます。
また、ESGブランド調査の上位常連であるサントリーは、サントリーグループのサステナビリティを謳った企業ホームページの中に、ESGの取り組みというページがあり、環境(Environment)、社会(Social)、ガバナンス(Governance)の項目ごとに、さらに細目があり、そこをクリックすると、数値目標とともに具体的な方向性と取り組みが示されています。なかでも「水と生きる」を掲げるサントリーが重視しているのは、水資源を守る取り組みで、2004年に開始した独自の次世代環境教育プログラム「水生(みずいく)」では小学校3~6年生と保護者を対象に「森と水の学校」や「出張授業」を行っており、この活動は今や国内だけでなく、東南アジアや中国、欧州にまで広がっています。
こうした事例を挙げると、「大きな企業だから」ということになってしまうかもしれませんが、最初からここまでの大きな流れになっているのではなく、初めは両企業とも、出来ることをやっていたのだと思います。スターバックスでは障がいを抱えている人であっても、彼らが掲げる価値観に合う人材であれば採用し、チャレンジを認めて支援する、それがサイニングストアのオープンに繋がっていきました。つまり、志を持ち、方向性を決めることが最初の一歩になるのです。
【Tips】
・スターバックスnonowa国立店では、聴覚障がいのある人たちが中心となって接客を行っている。
・「水と生きる」を掲げるサントリーは、独自の次世代環境教育プログラム「水生(みずいく)」で、小学校3~6年生と保護者を対象に「森と水の学校」や「出張授業」を行っており、この活動は今や国内だけでなく、東南アジアや中国、欧州にまで広がっている。
・ESGに対する取り組みは、大きな企業でなくても、志を持ち、方向性を決めることが最初の一歩になる。
どうしたら、取り組みや志を認知してもらえるようになるか?
良いことをやっていたら自然と取り上げてくれる、というのは、情報過多のこの時代においては幻想です。企業は社会的な価値を向上していく、そして、企業によって、持続可能なよりよい社会を作り上げていく、というESGの考え方を踏まえると、発信して広く認知してもらうことが企業にとっての価値向上に繋がりますし、顧客にとってもその情報が届いていることにより、持続可能なよりよい社会作りに消費活動を通じて貢献している、ということになります。更に、それが広まれば社会に対する大きな力になり、まさに「売り手よし、買い手よし、世間よし」の三方よしに繋がっていきます。そのためにもいかにして取り組みや志を伝えていくのか、というコミュニケーション戦略がとても重要になります。
日本人は特に「良いことをやっていることを、自ら進んで言わない」ことを美徳としているようなところもあるのですが、これは個人の価値観ではなく、企業にとっての戦略だと割り切ることが最初の一歩かもしれません。もちろん、やっていないことを言う、やっているにしても過剰に伝える、ということは決してやるべきではありませんし、環境に良いことをしている企業のように偽装する「グリーンウオッシュ」は既に問題になっています。従って、目指すのは、持続可能なよりよい社会作りを目指すうえで、志を掲げ、具体的に行っていることを、戦略的に正しくPRしていくことです。こうした際に頼れる存在が、広告代理店やPRエージェンシーです。
「自分では分からない良さを人が分かってくれる」ということが多々ありますが、ESGの文脈の中で考えている想いや具体的な施策を、彼らに棚卸しすることで、自分たちだけでは考えられなかった戦略が生まれてくることもあると思います。
是非、いい取り組みを行っていることを、堂々と伝えていきましょう。そのことが企業価値を向上し、更には持続可能でよりよい環境を作っていくことに繋がっていきます。突き詰めると、ESGというのは企業が環境や社会により良い活動をしやすくなるようにするための仕掛けなのだと思います。
【Tips】
・目指すのは、持続可能なよりよい社会作りを目指すうえで、志を掲げ、具体的に行っていることを、戦略的に正しくPRしていくこと。
・いい取り組みを行っていることを、堂々と伝えていくことにより、企業価値が向上し、更には持続可能でよりよい環境を作っていくことに繋がっていく。
まとめ
さて、話が少しだけ大きくなりましたが、身近なことで言うと、たとえば、スーパーの総菜コーナーで、「本日作ったものが閉店間際まで余ってしまったので、値引きしています」という単なるお店側の都合しか見えてこないタイムセールではなく、「フードロスを無くすためのご協力を頂き、地球環境に優しい持続可能な社会を作っていただけませんか」というコミュニケーションに変えていくことなのかもしれません。
さぁ、今からあなたも志を掲げ、身近なところで何が出来るかを考えてみてはいかがでしょうか?