コロナ後の旅行業界 ~どこまで回復?どんな変化?

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コロナ後の旅行業界 ~どこまで回復?どんな変化?

新型コロナウイルスの感染法上の位置づけが5類になったのが2023年の5月。その後、旅行業界はどのように変化したでしょうか。旅行業界といえば、新型コロナウイルスによって大きな打撃を受けた業界の一つです。アフターコロナの時代が訪れ、旅行業界はまたコロナ禍以前に戻ったのでしょうか?あるいは戻っていないとしたらどのような点なのでしょうか?また、コロナ前後で業界に何らかの変化はあったのでしょうか?

コロナ禍の期間の収束が長く待たれていた業界であるだけに、その変化が注目されています。ここでは、その実態を表す客観的な統計数字を見ていくとともに、新しいトレンドなどにも注目して、今後の旅行業界のマーケティングはどのようになっていくのかを考察したいと思います。

アフターコロナの旅行業界の回復状況

旅行業界におけるマーケティングの方向性を探るために、まずは現状を把握することが重要です。ここでは、政府のデータをもとに旅行業界の現状を見ていきます。

宿泊業

観光庁の「宿泊旅行統計調査」(2023年8月・第2次速報、2023年9月・第1次速報)の報告書(2023年10月31日)によると、2023年8月の延べ宿泊者数(全体)は、6,102万人泊、2019年同月比−3.5%(前年同月比+30.2%)で、また、2023年9月は、5,028万人泊、2019年同月比+3.1%(前年同月比+27.8%)となっています。
http://www.mlit.go.jp/kankocho/siryou/toukei/content/001705721.pdf

これを見ると、前年同月比では8月、9月ともに大幅に増えており、アフターコロナの期間に入り、確実に旅行業界が復調していることが分かります。
ただし、コロナ前の2019年と比較すると、9月は2019年を上回っているものの、8月は下回っています。宿泊業は旅行産業の中でもメインの業界であり、宿泊者数の推移は業界の動向を表すカギとなる指標ですが、この数字を見る限り、まだ完全にコロナ前に戻ったとは言い切れない状況であることが分かります。

また、このレポートによると、施設タイプ別客室稼働率の推移ではビジネスホテルやシティホテルの宿泊率の回復がリゾートホテルや旅館よりも先行しており、観光目的の旅行よりも出張のようなビジネス目的や、観光でも比較的安価な宿泊先を求めている旅行客によって回復が進んでいると類推できます。
今後の宿泊業界の回復には、観光目的の旅行客の増加がポイントとなると言えるでしょう。

旅客運送業

もう一つの重要な業界は旅客運送業ですが、こちらは経済産業省の第三次産業活動指数によってその動向を見ることとします。
http://www.meti.go.jp/statistics/tyo/sanzi/gaiyo.html#cont2

主な旅行手段としては鉄道旅客運送業と航空旅客運送業があげられます。これらの業界の指標の推移を見てみると、鉄道業界に関しては2023年の5月以降は2019年の同時期と比較した場合に8~9割程度、また航空業界に関しては同程度の回復となっています。
http://www.e-stat.go.jp/stat-search/files?page=1&query=%E8%88%AA%E7%A9%BA%E6%97%85%E5%AE%A2&layout=dataset&toukei=00550360&tstat=000001041132&metadata=1&data=1

ただし、航空業界について、国内線と国際線を比較すると、国内線については2019年とほぼ同程度まで回復しているのに対し、国際線は7割程度の回復となっており、国際線の回復が進んでいないことが分かります。
これは昨今の円安の影響で海外では相対的に日本国内よりも物価が高くなっていることや、2022年以来続いている海外での紛争などにより、海外への渡航を控える消費者が増えていることが原因と考えられます。既に世界の多くの国ではコロナを理由とした渡航制限が解除されているため、コロナを理由として渡航を控えるというよりは、これらの要因が
海外旅行業界の回復を妨げる要因となっていると思われます。

日本人旅行客と外国人旅行客の動向

上記の観光庁のレポートによると、2023年8月の延べ宿泊者数は、6,102万人泊(前年同月比+30.2%)で、うち外国人延べ宿泊者数は1,010万人泊(前年同月比+1296.5%)。延べ宿泊者全体に占める外国人宿泊者の割合は16.5%となっており、日本人宿泊客数が外国人宿泊客数の6倍程度となっています。ただし、日本人宿泊客数が前年同月比30.2%なのに対して、外国人宿泊客数が前年比1296.5%と大幅な伸びになっており、コロナ明けを待っていた外国人旅行者の訪日が大幅に増えたということが見て取れます。
さらに、コロナ前との比較で見ると、2019年の同月比では、日本人宿泊客数は全国の数字で-5.2%となっており未だにコロナ前の水準まで回復していないのに対し、外国人宿泊客数は+6.4%と、コロナ前の水準を回復するどころか、むしろ上回っています。
この数字を見てみると、旅行業界の回復のためには、日本人旅行客数のコロナ前の水準の回復を目指すことも重要ですが、外国人旅行客数が伸びていることを考慮すると、外国人観光客の期待に応えていくことがポイントであると思われます。

【Tips】
・宿泊業はビジネス用途の回復が先行、観光はこれから。
・旅客運送業は国内ではコロナ前の水準に戻ってきているが、海外渡航はこれから。
・外国人旅行客はコロナ前まで既に回復。

アフターコロナの旅行業界のマーケティング

上記のように、当面のマーケティング施策としては外国人旅行客の急速な増加というチャンスをどう活かすかがポイントとなると考えられますが、そのためのマーケティング施策立案のポイントを見てみます。

デスティネーション・マーケティング

デスティネーション・マーケティングとは、旅行の目的地を商品としてマーケティング施策を実施することです。デスティネーション・マーケティングを実施する目的は、旅行の行先を観光客が検索・情報収集する段階から意識し、その地域への興味や関心を高めて訪問を促すことです。観光庁が行っている施策である「DMO(デスティネーション・マーケティング・オーガニゼーション:観光地域づくり法人)」も、このデスティネーション・マーケティングの考え方を活用して地域の「稼ぐ力」を引き出そうとするものです。

この方法で成功していると見られる地域では、観光客数が伸びています。上記の観光庁のレポートによると、2019年の同月比の数字を県別に見てみると、東京や大阪のような大都市圏での伸びは当然として、栃木県(日光など)が+45.1%、石川県(金沢など)が+17.6%、広島県(平和記念公園など)が+26.7%、大分県(別府温泉など)が+45.2%、といったように有名な観光地がある県がコロナ前を大きく上回る外国人旅行客数となっており、観光の目的地を明確にPRすることができた場所が成功していることが分かります。

デスティネーション・マーケティングにおいては、旅行者が行先を検討して情報収集を始める段階からコミュニケーションをしておくことが重要で、SEO対策などを行うことで早い段階から情報提供を行い、目的地への旅行意欲を刺激することが効果的です。

サステナブル・ツーリズム

新しい旅行のトレンドとして、サステナブル・ツーリズムという考え方があります。これは、「持続可能な観光」の意味で、旅行先の地域文化および環境保全を考慮した旅行のことです。
また、サステナブル・ツーリズムにもいくつかの形があり、リジェネラティブ・ツーリズム(再生型観光)、レスポンシブル・ツーリズム(観光客が責任を持つ観光)、アドベンチャー・ツーリズム(アクティビティ、自然、文化体験で構成される観光)といったものがあります。

今年に入ってからの急速な旅行客の増加により観光地が大混雑となったり、宿泊先が見つけられなかったりといったオーバー・ツーリズムが問題となることがあります。さらに、歴史的な建造物のような観光地に大勢の観光客が訪れることで建造物が傷つけられたり、登山道が多くの観光客であふれかえり、弁当や飲料を消費した後にゴミを捨てる場所が足りずに、山道にゴミが捨てられたりといったことが問題となることがあります。
旅行客が増加することで起きるこれらの問題を解決するために、サステナブル・ツーリズムの考え方が注目されています。旅行客の増加と観光地の美観維持を両立させるためには、サステナブル・ツーリズムの実現が欠かせないからです。

国別のターゲティング

上記の観光庁のレポートでは、2019年の同月比で国籍別の宿泊数を見ると韓国が+98.0%、アメリカが+46.1%、カナダが+101.5%、オーストラリアが+38.1%、イギリスが+26.0%と大きく伸びているのに対し、中国は-50.5%と減少したままです。

数字が伸びている国は、主には為替の影響で日本での旅行で相対的な物価の低さを実感しやすい国が多くなっています。特にレストラン業界では、世界的に和食の人気が高まっている傾向があり、日本への旅行でグルメを楽しむことが目的となっている人も多いことでしょう。これらの旅行客が増加している国に向けたPR施策が短期的なマーケティング施策としては有効であると考えられます。

一方、中国は数字の上での回復は遅れていますが、2023年8月から中国人観光客の日本への団体旅行が解禁となったため、今後は回復傾向が見られるかもしれません。ただ、中国は日本の水産加工物の輸入規制など、日本との商取引の規制が継続しているため、先行きが不透明であり、今後の動向を慎重に見極めながらマーケティング施策の実施をしていくことが必要です。

【Tips】
・デスティネーション・マーケティングで観光地の魅力を発信することがポイント。
・新しいトレンドとしてサステナブル・ツーリズムの考え方にも注目。
・国別の動向は流動的。

まとめ

コロナ禍で多大な影響を受けた旅行業界は、アフターコロナの時代に大きな回復が期待される業界です。しかし、コロナ前とは状況が変わっている部分もあり、単純に以前と同じ状況に戻るわけではなさそうです。常に新しい情報を収集し続け、最新の動向にあったマーケティング施策を実施していくことが、旅行業界の回復のカギとなることでしょう。

 

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