小売店舗や企業はもちろん、個人事業主や会社員も含め、自らの新チャネル開発あるいは副業として「中古品売買」を手掛ける人が増え、ネットショップでの取引が活況を呈しています。現在ではEC、フリマアプリ、SNSなど様々なICTサービスが充実し、ネットショップ等のECにも色々な手法が出てきています。どのようなアプリ野菜とやサイト、各種サービスなどをどうやって使い分ければよいのか、元来中古品の売買が恒常的に行われてきた「楽器市場」を例にとって見てみます。
※中古品を販売する場合、本人所有のものの売買などを除き、多くのケースで古物商の認可が必要です。
増加するネットショップや個人売買
ネットでの個人取引が増加した要因としては、主に電子決済等のインフラが整備され、SNS等で気軽にビジネスを始められる環境が整ったことに加えて、フリマアプリなどを活用することで売買におけるトラブルのリスクが激減したことなどが挙げられます。
生活者の心理的にも、現在は環境への配慮という観点からリユースやアップサイクルなどの気運が高まってきており、中古品の購入のみならず販売することへの心理的障壁が取り払われてきています。さらにここ数年、コロナ禍による巣ごもり需要として趣味に費やす時間が増え、また一方で長びく円安や世界各地での紛争によって海外からの物流が著しく停滞するなど、様々な環境が呼応するように国内の中古品取引を後押ししています。
さらに、断捨離や遺品整理などによって市場を流通する中古品が質・量ともに高まり、消費者から見ても探して選ぶ楽しみが増えたことも見逃せません。
【Tips】ICT環境の充実に加え、断捨離ブームや巣ごもり需要などもネットショップや個人売買を後押し。
フリマアプリ、EC、SNS等の種類と特徴~「楽器」を例に
かつては大手量販店は自社ECサイトを整備し、中小規模の事業者がアプリなどを活用して初期費用をかけずに出店するケースが多かったのですが、今日では一概にそうとも言えず、大手メーカーや量販店がフリマアプリに出店したり、逆に個人事業で専門のアプリを開発したりと様々なケースが見られます。そこにはコンバージョン(視聴者、来訪者が自社の見込み顧客になる、といった変化)の複雑化や、デジタル上でのレピュテーション(風評)形成がより難しくなってきているといった背景があるようです。
一方でネットでのスモールビジネスにおいては、販売側も購入・仕入れ側も、実際の商品の状態が表記と違ったり、その結果として返品やトラブルになったりするのは搬送コスト的にも時間的にも大きな機会損失であり、そのリスクを避けるためのメディアやサービスの選択眼も重要になります。
ここからは中古楽器を例に、EC、フリマアプリ、SNSといったメディアやプラットフォームの有効な使い分けのテクニックを見ていきたいと思います。楽器市場を例に取るのは、①専門の事業者(楽器店)から個人売買まで様々な売り手と買い手がいること、②新品からビンテージまで種類も多く、価格帯も数千円〜数百万円台と多様であること、③同じ種類の楽器でも個体差が大きく、ネットでの売買に際しては多くのストレスや不安があること…などの理由で、他の業種・品種に参考・応用できる点が多いと思われるからです。
フリマアプリ、オークションサイト
今やすっかり私たちの生活にとけこんだ感のあるyahoo!オークション(ヤフオク)、メルカリ、楽天ラクマ(旧フリル)といった個人売買をベースとしたアプリやサイトです。これらのアプリやサイトは利用者、閲覧者ともに非常に多いため、そこに出品して取引の実績を積むことは、実際の売買による収益もさることながら、事業者としての信用度を担保するPR的側面からも価値を持つと言えます。それゆえ、自社サイトを持っている事業者も、あえて手数料によって収益性は落ちるこれらのフリマアプリやオークションサイトに出品する場合があります。
もはや日本の生活者の購買行動の一部にもなっているともいえるこれらのアプリ、サイトですが、そのシステムの違いからそれぞれ売り手や買い手のメリットやストレスなどの強みと弱みがあります。
国内のオークション形式のサイトで、専門事業者から一般人まで利用者の幅が最も広いのはyahoo!オークションです。多くがオークション形式で出品され、取引されるこのサイトの最大の強みは、出品商品のバリエーションの豊富さです。競り合いによっては落札価格の上振れも見込めるため、ビンテージ楽器や1点ものの楽器、掘り出し物を売りに出す人が多いためです。
半面、オークション形式の特徴として、売り手・買い手ともに納得のいく価格で取引ができるか最後まで分からないというストレスもあり、貴重な愛用品を売りに出す時にオークションサイトへの出品をためらう人もいます。
一方メルカリや楽天ラクマなどのフリマアプリは販売価格を売り手が設定する定額制なので、売り手は安心して出品することができます。また送料込み価格であることが多いのも、買い手が安心できるポイントです。しかし、これらのアプリで取引をする際の売り手の懸念点は在庫滞留です。売り手が設定する価格と市場の相場や買い手が納得する価格に乖離がある場合、その商品は落札されず、場合によっては延々と出品され続けることになります。小ロットしか持たない一般個人であればともかく、事業者の場合その在庫滞留はリスクになります。上手くいけば事業のPRにもなりうるフリマアプリへの出店が、「誰も振り向かない、いつまでも売れない商品」というネガティブな風評につながりかねないのです。
そこでフリマやオークションで販売をする場合、価格設定が非常に重要なファクターになってきます。
【Tips】オークションとフリマでは、取引における買い手のストレスが微妙に異なるので、出品に際しては注意が必要。商品が売れないまま残ると、その商品や事業者に対するネガティブな印象にもつながる。
専門サイト、自社サイト、一般ECサイト
個人や副業的なECを身近にしたのは、まぎれもなく楽天市場やYahoo!ショッピング、amazonといった「モール型」のECサイトでしょう。さらに近年では、BASE、STORES、ShopifyなどECテンプレートを提供するアプリケーションサービスプロバイダー(ASP)の登場により、簡易な自社ECサイトも手軽に作れるようになりました。
また楽器など専門性の高い商品などでは、楽器店や専門事業者が委託販売のサイトを運営するなど、ECプラットフォームには様々な形態があります。
「モール型」や「ASP型」、さらに自社サイト構築と同様のカスタマイズが可能な「パッケージ型」などのECサイトを作る場合、検討ポイントは、どのようなサービスを受けられるか、販売手数料率はどの程度か、外部リンクなどが張れるかといった細かな条件の比較になります。どれを選ぶかは目指すネット販売のスタイルによって変わってくるのでここでは大きくは触れず、楽器などに特有な「専門店による委託販売サイト」について見てみます。
楽器の委託販売サイトにはデジマート、J−Guitar.comといったものがあります。最大の特徴は、運営事業者や楽器店への委託販売が基本であるという点で、楽器以外でも、カメラや高級時計といった商材では委託販売サイトが発達しています。それらに共通しているのは、①比較的高額な商品であること、②売買にある程度専門的な知識が必要なカテゴリーであるということです。それらの多くは、ECで購入後に「使用感が違う」「手に馴染まない」という結果になったり、最悪の場合はトラブルに発展したりする可能性もあります。
このことは非常に示唆的であり、いわゆる高価な道具類の「触れない、試せない」といったデジタル特有の課題を新たなサービス等でどのように克服していくかは今後のEC発展のための大きなテーマのひとつといえます。
その点で専門店などによる委託販売の最大のメリットは、商品がECと併行して店頭販売されることも多いため、店頭で実際に手に取ったり試奏したりできることです。また商品が一度楽器店を通ることで、商品を持ち込んだときに不備等を確認してもらうことができたり、必要に応じて修理を受けたりすることもできます。そして楽器店の名前で出品されることで安心感があるため、個人売買でのトラブルを避けたい買い手も安心して購入できる、すなわち商品が早期に売れやすくなるのです。
一方で最大のデメリットは委託販売手数料が高額である点で、プラットフォームや楽器店の手数料が重なるため、手数料率は販売金額の15〜20%、場合によっては50%近くになることもあります。それでも買取りや下取りと比べて価格透明性が高いので、手持ちの楽器を速やかに現金化したい場合などには有益な手段のひとつです。
ECで副業や新たなビジネスを起こそうとする場合、この手数料率では事業は成り立ちづらいですが、楽器販売の事業会社(web楽器店)を立ち上げる際などには委託販売サイトに掲出することには一定のPR効果が見込めます。専門のモールに掲載されるというメリットに加え、楽器店によっては販売促進のためにYouTubeその他のSNSで情報を発信することもあるからです。
【Tips】自社ECサイトは、その目的や規模感、予算等に応じて、モール型、ASP型、パッケージ型などを選ぶ。またweb店舗立上げの際、早期に認知を獲得する目的のために楽器店等の委託販売サイトにエントリーするという方法もある。
SNS
今やECにとって、FacebookやInstagram等のSNSが重要なツールであることは周知の事実です。楽器そのものを主役にして、InstagramやPinterest等でハッシュタグを付けて検索してもらい、自社ECサイト等に誘引するといったSNSマーケティングなどの説明はまた別の機会に譲るとして、ここでは上記の「触れない、試せない」を補完するSNSの活用法を見ていきます。
楽器のECにとって有効な施策のひとつがYouTubeです。楽器ECを展開する楽器店の多くがYouTubeチャンネルを持ち、強く押したい商品については店員やプロのアーティスト、インフルエンサー的プレーヤーが実際に演奏し、その音色を解説したり、使用実感のコメントなどを動画で公開したり、という手法を採用しています。
さらに、YouTubeに限らずFacebookなどのSNSの特徴として、それらに日常的に接触する人は、ほかのメディアやECサイトなどでの楽器の売買情報への接触率が高いという調査結果があります。
したがって、FacebookやX(旧Twitter)などにショップや個人でアカウントを作り、コンスタントに情報発信をすることも、ECビジネスを成長させるためには大いに有用といえます。
【Tips】動画そのものが検索され、動画からECサイトへの誘引も可能なSNSは、楽器ECの「触れない、試せない」というデメリットを克服し、セールスを促進するための有効な施策のひとつ。
海外のECサイト
中古楽器を扱う海外のECサイトとしては主に、eBay、Reverb、Etsyなどが挙げられます。
amazonも通常日本国内では日本のamazon.co.jpに接続されますが、操作によって表示を海外の国に変えることで、各国のamazonで取引することもできます。
元来ネットショップ等が海外のECサイトで取引するケースとしては、日本国内では小ロットしか流通せず高額な商品を海外から安く輸入し、国内で販売して利益を得る競取り(せどり)が主流でした。しかし今日、売り手として見過ごせないのが、海外在住の消費者です。長期化する円安傾向により、海外のコレクターにとって日本の中古市場は送料をかけてもなお商品を安く手に入れられる重要なチャネルになっています。また日本人の几帳面さゆえ、日本で保存されていた中古楽器は保存状態がよいということも、日本の中古楽器市場を活気づけている一因です。それを受けて最近のネット通販では、国内のフリマアプリやオークションサイトへの出品と平行して海外のECサイトにも出品するケースが急増しています。
海外への商品発送や通関の手続など、実際の取引は考えていないという人にとっても、価格調査という意味で海外のECサイトは無視できません。世界中から商品情報が集まる海外のECサイトでは、自分が売ろうとしている楽器に類似する商品が出品されていることも多く、販売したい商品の世界市場での相場を知ることができます。日常的に楽器の売買をしている日本の買い手も海外のECサイトを日々確認しているので、海外で出品されている類似商品の価格(円表示)を見れば、どこまでの価格設定(実質的な値上げ)が可能かもわかります。
中古楽器に限らず、海外で販売されている商品の円換算価格は長引く円安を背景に高値を維持しており、それが日本国内での物価上昇の一因にもなっている点は注目に値します。
【Tips】海外のECサイトは実際の売買でも有力なチャネルだが、それ以上に出品時の「値付け」の相場感を確認するデータベースとして利用できる。
フリマアプリ、EC、SNS等の使い分けのコツ
見てきたように、副業またはチャネル開発としてネットショップ(EC)を始める場合、事業の進捗によって打つべき手法は変わってきます。全く未経験であれば、まず手始めに手元にある中古品をオークションサイトやフリマアプリに出品してみることから始めるとよいでしょう。オークション形式で出品するか落札価格を提示して出品するかは、出品する商品の特徴などから想定落札価格を含めて検討する必要があります。
その後事業を継続し、かつ成長させるには、まず古物商の営業許可を取得し、事業会社や個人事業としてネットショップを開設します。その際にはモール型、ASP型、パッケージ型などのサービス内容と長所/短所を比較して、サイトを構築するとよいでしょう。
いずれの場面でも必要となるのが、SNSでの継続的な情報発信や楽器店への委託なども含め、様々な人の手を借りて情報を拡散することです。中古楽器のように個体差があり個性的な商材に関しては、情報を出し過ぎということはないと言っても過言ではありません。
消費者(顧客)がある商品やサービスを知り⇒吟味検討⇒購買⇒使用した満足感までの一連の体験を「カスタマーエクスペリエンス(CX)」と呼びますが、オークションサイトやフリマアプリ、その他ECサイトなどで常に中古楽器やビンテージ楽器を探しているユーザー層は、単なるカスタマージャーニーを超越した顧客体験、すなわち掘り出し物をあちこち検索し、そして運命の商品と劇的な出合いにたどり着く瞬間を求めているのです。それを上手に演出するのが、嗜好性の強い商材を扱うネットショップで成功するテクニックだといえるでしょう。