「耳で読ませる」コピーライティング ~伝わる文章作成のヒント

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「耳で読ませる」コピーライティング ~伝わる文章作成のヒント

覚えていますか?「関係代名詞」。  
中学校の英語の授業で「関係代名詞」なるものが出てきた時、直訳した日本語に違和感を感じませんでしたか。「これは彼が通っているところの学校で、彼が昨日友だちから借りたところの時計です」とか。英語独特の表現なので直訳するとゴツゴツするのは仕方ないですが、その後「日本語としてわかりにくいので、実際に訳すときはこの語順にこだわらなくてもいいですよ。『ところの』も要りません」と教えてもらったのを覚えています。文法の構造を理解させるために、先生はわざとゴツゴツした直訳を最初に示したのですね。  
英語を文法上の要素に分解し、各単語や文節に割り当てられた日本語訳をルールに従い組み立てれば、一応意味の正しい直訳ができますが、なんとも読みにくい、思いやりのない文章になってしまいます。正しい文章がいい文章とは限らない。では、いい文章とは?ここでは「耳で読ませる」をキーワードにひも解いていきましょう。

日本語は「読む人目線」が苦手?

文章を書く時は、読む人の気持ちになって……この類のことは、書くことについて誰かに教えを乞えば、必ずと言っていいほど言われる大事なことです。しかし、困ったことに、日本語は「読む人目線」の文章を構成するのが比較的苦手な言語と言えるのです。  
たとえば、「you attitude」。英語では、特にビジネスや商売上の文章はこの「you attitude」が原則ですが、日本語は必ずしもそうではありません。  
さて、「you attitude」とはどんなものか。例を挙げます。

「抽選で、ハワイ旅行をプレゼント!」

こんなプレゼントキャンペーンのコピーがあります。日本人の我々には特に違和感はありませんが、「you attitude」が当たり前の言語圏の人々は首を傾げるかもしれません。何故か。「you attitude」の文章では、送り手(=メッセージの発信者)が何を言いたいか、ではなく、受け手(=宣伝文句の場合、多くは生活者)にとってどんなメリットがあるかを表現するからです。このキャンペーンならさしずめ、

「ハワイ旅行に行けるチャンス!」  
「数か月後ハワイのビーチでくつろいでいるのは、あなたかも!」

といった具合です。もっと端的な話で空港の案内放送があります。日本では、放送の一番始まり、チャイムが鳴った後の出だしは、以下のようになりますね。

「ご案内します」

決まり文句ですから深く考えなくてもよいかもしれませんが、このセンテンスで「案内」するのは、航空会社や空港です。「航空会社が」という主語が省略された文章、ということですね。一方、英語では

「(May I have your) attention please.」

が代表的ですが、ここで「attention = 注目」するのは誰かと言えば、そうです、お客さんなのです。「お客様は注目(傾聴)して下さい」ということで、主体が聞き手になっています。空港の案内放送で大事なのは、まずお客様が耳を傾けてくれること、というわけです。  
「you attitude」と「I attitude」の差は、単なる文法上の特徴の違いにとどまりません。商品広告なら、商品のスペックや特徴を多く羅列するより、その商品を買うと消費者にとってどんなメリットがあるのかを示す方が、受け手(=消費者)にとってはわかりやすいし、興味をそそられる可能性が高まります。とはいえ、やみくもに「you attitude」を用いるべきだというわけではありません。宅配便の「(販売者の)発送日」と「(お客様の)受取日」、食品の「(メーカーの)製造日」と「(お客様の)賞味期限」など、どちらがより受け手にとって有用で嬉しい情報か、その情報の使い道によって吟味することで、より伝わりやすい文章作成につながります。

【Tips】  
「耳で読ませる」、その1。それは「読む人が何を読みたいか」を考えること。  
「you attitude」を意識することで、受け手にとってわかりやすい文章が書ける。(このTipsの文も「you attitude」)

話し言葉のいいトコどりで、わかりやすさアップ

人類が「言葉」を使うようになったいきさつについては諸説ありますが、文字による表現よりもまず音声や身振り手振りによって伝達されていたと考えられます。特に日本語の場合、文字は当初中国の漢字を工夫して表記に使っていたため(万葉仮名など)、いわゆる「書き言葉」での表現は「話し言葉」の後に生まれ、発展していきました。書き言葉は話し言葉に比べ、リアルタイムに受け手が全てを理解する必要がなく、受け手の都合で理解にかける時間は自由なので、使える語彙も豊かで複雑な構成や長文も可能です。一方、話し言葉は、もともとリアルタイムでの情報伝達を前提としているため、送り手はその場で文章を作りながら伝達し、受け手も受信しながら理解する必要があります。あまり長い文章や特殊な単語は避けられ、「倒置」や「略語」、「体言止め」などが無意識に用いられています。  
録音機器が生まれるまで、言葉を記録する手段は「書き残す」以外になかったため、言葉の表現は「書き言葉」を中心に発展したのも無理からぬことです。しかし書き言葉であろうが話し言葉であろうが、長くて構成の複雑な文章はわかりにくいものです。自分の専門でない学術論文を読む時の苦痛を思い出してみて下さい。  
もし受け手にとってわかりやすい文章を作りたいのなら、たとえ書面やメールなど文字として伝達する場合でも、「話し言葉」並みのわかりやすさ、伝わりやすさを目指すのも悪くありません。具体的なテクニックとしては「短文化」「倒置/省略」「基本語句」などがあります。

話し言葉から書き言葉に応用できるテクニックとして、もう一つ大事なのは「リズム」です。特に標題やサマリー、キャッチフレーズなどの短文では、読んだ時のリズムは記憶に残すために実は重要な要素です。五七調・七五調といった音節数のセオリー、いわゆる「音数律」や、文頭や文尾の音をそろえる「押韻」などのテクニックが昔から有名です。俳句・短歌や子どものはやし言葉から現代のJ-POPの歌詞まで、内容が頭に入りやすい文章は、得てして「リズム」がいいのです。  
リズムがいい文章を書くにはどうしたらいいでしょうか?前述のテクニックを用いてもよいのですが、テクニックに縛られ過ぎるとあざとくなり、かえって共感しにくくなりがちです。最も簡単に試せる方法は、自分の書いた文章を声に出して読んでみること。よどみや突っかかりがなく、歌うようにすうっと読める文章は、受け手にとってもわかりやすく印象深い文章であるはずです。

【Tips】  
「耳で読ませる」、2番目は、書き言葉でも「聞いてわかる」を意識すること。  
倒置・省略・短文化、それにリズム。

ハイコンテクストをうまく活用

「コンテクスト」という言葉を目にしたことはありますか?グループで議論する場合、そのグループメンバーに共通する背景や知識レベル、モラルなどを指します。「文脈」という日本語を訳語とすることが多いようです。もっとカジュアルに言うと、「空気を読む」の「空気」にあたるものが近いかもしれません。  
日本は「ハイコンテクスト社会」と呼ばれています。人々が共通して理解している状況背景は周知のものとして扱われ、「言わずもがな」として省略が可能になります。逆に敢えて説明する方が野暮ったく見えたり、「空気を読んでいない」意見に聞こえたりします。京都人の「ぶぶ漬けでもいかが?」とか、夏目漱石の「月がきれいですね」とか、すでに現代人の我々にも真意をつかみにくいものです。  
逆に、これらの共通認識や「空気を読む」ことができない社会は「ローコンテクスト社会」と呼ばれます。多民族国家や国際会議など、参加者が誰であれ伝達できるメッセージ構築が要求される集団がこれにあたります。

文章作りの際、伝えたい相手が誰なのかを見極め、その相手と共有しているコンテクストを把握すると、言うべきこと、省略できることが見えてきます。その上で作った文章は対象となる受け手にとって適切にシェイプアップされたスマートな文章に映るでしょう。  
信号の色の意味を知らない幼児が相手なら、

「ここで、止まれ!信号が赤になりましたね。赤は『止まれ』という意味です。止まらないと車にひかれて大けがしますよ」

と説明しなければなりませんが、スマホを見ながら道を歩いている若者が相手なら、

「あぶない!赤だよ」

だけで十分通じます。このように、短い文でも「よそ見をしている人に向けての注意喚起」だということがわかりやすくなり、文に強さが備わります。  
この「コンテクスト」をマーケティング視点で積極的に活用して宣伝文句を考えることができます。例えば、「酒好きは辛口の日本酒を飲みたがる」という、多くの日本人が頷くようなファクトと、それとは別に「高級な吟醸酒はほのかに甘くフルーティな味がする」という、さほど一般的でないファクトがあるとします。後者は、普段高級酒を飲んでいる人にしかたどり着けないもの。つまり、そういうお酒を買える収入層を狙いたい商品の宣伝文句としてうってつけのファクトということになります。  
「辛口の先にある、ほのかな果実味。見極められる人は、少ない。」こんな言い方でターゲットにしたい人の優越意識をくすぐることができれば、このキャッチフレーズは戦略的に機能するのではないでしょうか。

【Tips】  
何を、誰に「耳で読ませる」のか。それによって文の作り方は自ずと変わってくる。  
受け手のコンテクストを意識し活用して、より戦略的な文章構築を。

「結論先行」と「もったいぶる」のバランス

最後に、文章の構成の話をします。  
文章は結論、メインテーマを先に提示し、後からその結論を裏付ける説明をする流れが受け手にとってわかりやすい、というのが一般的です。このことは一つの文の中でも、文章全体についても応用できます。そして、これもまた日本語の語順とは違います。たとえば、

①「我が市の貴重な森林を失うことになるので、私は工業団地造成に反対します。」

この文は日本語として正しい語順ですが、文章の主題である「造成に反対だ」というフレーズが最後尾にあります。より主旨が伝わりやすい文にするなら、2つの文に分けて語順を変えるとよいでしょう。

②「私は工業団地造成に反対します。我が市の貴重な森林を失うことになるからです。」

この方が文の主旨はよく伝わりますね。しかし文章の構築は、機械的にAかBかを選択する作業ではありません。たとえばこの文の場合、「反対である」ことは主題ですが、受け手にアピールする「つかみ」のある内容は「街の森林が失われる」ことだとしたらどうでしょう?

③「森林を失ってもよいのですか?我が市の貴重な自然財産を。私は、反対です。」

「私は反対だ」という文の主題をもったいぶって最後に持ってきて、代わりに「森林が失われる」という「つかみ」のある内容を強調しています。ここでも、話し言葉のように「聞いて印象に残る構成」にしてみました。  
これら3つの文は、どれも言っていることは同じです。あとは「受け手は誰か」「主題は何か」「何が魅力的か」などを考えて、「結論先行」と「もったいぶる」のバランスを決めていくことになります。

【Tips】  
「耳で読ませる」構成とは。  
ルールとして「結論が先」と決めるより、「つかみ」をどう演出するかで決めてみる。

まとめ

文章作成の基本は、まず送り手(=発信者)の「書きたいこと」より、受け手(=受信者)の「読みたいこと」を探すこと。次に、受け手にとって伝わりやすくするために、たとえ書いた文章であっても「話し言葉」をベースに言葉を選ぶこと。  
受け手が文章を目で追いながら、まるで耳で聴くようにその文章を理解できたら、その内容はきっと、受け手の記憶や印象に残りやすくなるでしょう。「耳で読ませる」として言いたかったことは、みなさんに伝わりましたでしょうか?文章テクニックには様々ありますが、相手に理解しやすい文章作成の方法の一つとして参考になれば幸いです。

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