このコーナー内の「
広告担当者のための著作権対策/基礎編」というタイトルの拙稿で、著作権の内容や著作物を扱う際のリスクなどについて説明いたしました。その際、"著作隣接権につきましては、機会がありましたらまたご説明できればと存じます"と申し述べました。著作隣接権も広告作業の過程において理解しておくべき権利だと考えますので、本稿では前回積み残した著作隣接権についてご説明いたします。
著作権(最広義)───┬著作権(広義) ┬著作権(狭義)
└著作隣接権 └著作者人格権
著作隣接権とは
ざっくりと言うと「著作物の伝達を行う者に対して与えられる権利」です。せっかくの著作物も、それを伝え広めるものがいなければなかなか行き渡りません。多くの費用や労力をかけて著作物を伝達することも文化の発展に寄与する行為となりますから、こうした行為を行う者を著作隣接権という権利によって保護しています。とは言っても、著作物を伝達する者全てに著作隣接権が生じるわけではありません。実は著作隣接権が生じる伝達行為は4つに限定されています。「実演」、「音の固定」、「放送」、「有線放送」です。著作権法ではこれらの行為を行う人をそれぞれ「実演家」、「レコード製作者」、「放送事業者」、「有線放送事業者」と呼んでいます。それぞれ簡単に説明します。
まず実演ですが、著作権法では「著作物を、演劇的に演じ、舞い、演奏し、歌い、口演し、朗詠し、又はその他の方法により演ずること」や「著作物以外のものを演じる場合で芸能的な性質を有するもの」と定義しています。ニュアンスとしてはパフォーマンスと言った方が近いのかもしれません。なお、口演というのは具体的には話芸といわれるジャンルが該当します。講談師、落語家、漫才師などが典型例です。さらに後者の文言から、著作物以外のものを演じる場合でも、芸能的な性質を有する者であれば実演に該当し、著作隣接権が生じることに注意が必要です。具体的にはマジックやアクロバット、物まねなどがこれにあたるとされています。余談ですが、伝説の女優サラ・ベルナール(1844-1923)が、レストランでメニューを読み上げただけで、その場にいた客を泣かせたというエピソードがあります。メニューは著作物ではなさそうですが、その読み上げは素晴らしい“実演"だったということになるでしょう。ともあれ、広告などで実演を利用する場合は、著作権の有無にかかわらず実演家の著作隣接権に対しての配慮をお忘れなく。
次に「音の固定」ですが、まあ要するに録音です。対象は著作物に限りませんし、録音媒体も問いません。著作権法上は音が固定された媒体は全てレコードであり、音を最初に固定した者がレコード製作者ということになります。録音されたテープやCD、パソコンのHD、USBメモリなどもレコードです。なお、このレコードのことを「原盤」とも言いますが、著作権法にある言葉ではありません。注意点は2つです。レコードは媒体を選びませんが、「音を専ら影像とともに再生することを目的とするものを除く。」とされているため、映像ソフト等はレコードではありません。一方、対象は著作物に限らないと述べましたが、人為的な音であることも要しません。例えば鳥の声や波の音を固定した物もレコードとなります。したがって、著作権などありそうもない虫の鳴き声だからといって、出所のわからない音源を使用することは著作隣接権侵害のリスクを伴います。
それから「放送」、「有線放送」ですが、“公衆によって同一の内容の送信が同時に直接受信されることを目的として行う無線通信の送信"が「放送」、同じ目的で行う有線電気通信の送信が「有線放送」です。文言は分かりづらいですが、前者はテレビやラジオ、後者はケーブルテレビや有線ラジオが代表例です。「放送」「有線放送」を業として行う者をそれぞれ「放送事業者」「有線放送事業者」といいます。ちなみに、「有線放送事業者」にも著作隣接権を付与しているのは日本独自のルールで、国際的には、著作隣接権を持つのは「実演家」「レコード製作者」「放送事業者」の3者です。
【Tips】著作隣接権者は「実演家」「レコード製作者」「放送事業者」「有線放送事業者」の4者に限られる。
著作隣接権の特徴
著作権との比較によって著作隣接権の特徴を述べます。
まず、権利の発生については著作権と同様、無方式主義をとっています。つまり、申請や登録といった手続きは一切不要で、「実演」「音の固定」「放送」「有線放送」の行為が行われた瞬間に自動的に付与されます。
権利を持つ者もいわゆる「プロ」である必要はありません。例えば、一般人であってもカラオケで歌ったり、手品を披露したり、ICレコーダーで会話を記録したり、ボイスメッセージを送ったりした場合などもれなく著作隣接権が発生します。というわけで、これを読んでいる方の多くが「実演家」であり「レコード製作者」なのです。特段の資格を要しない点は著作権と同様ですが、「著作隣接権」の場合、該当行為を行うだけで権利が発生し、創作性は問われません。この点は「著作者の権利」と大きく異なります。
発生した著作隣接権は、著作権と同様、一定の保護期間が経過すると消滅します。その長さは、著作権が著作者の死後70年間であるのに対し、著作隣接権については、実演があった時から70年、レコードが発行された時から70年間、放送、有線放送が行われた時から50年間となっており、基本的には著作権よりも短く設定されています。
以前は著作権や実演家、レコード製作者の権利の保護期間は50年でしたが、2018年末に70年に延長されました。ただし、保護期間が50年だった時期に保護期間が終了したものについては、70年に延長された後も復活しません。具体的に言うと、1967年以前の実演やレコードは2017年末までに保護期間が終了しています。一方、1968年以降のそれらは2038年末まで保護期間が20年延長されました。ちなみに1967年に発行された主なレコードとしては「ブルー・シャトウ」(ジャッキー吉川とブルーコメッツ)「世界の国からこんにちは」(三波春夫)「この広い野原いっぱい」(森山良子)「いい湯だな」(ザ・ドリフターズ)などがあります。著作隣接権が消滅しているレコードの中では最も新しいということになります。
【Tips】著作隣接権に創作性は不要
著作隣接権の内容
著作隣接権は著作財産権と同じく支分権と呼ばれる具体的な権利を束ねたようなものですが、その内容は、実演家、レコード製作者、放送事業者・有線放送事業者で異なります。
〈実演家の権利〉著作者の権利に著作者人格権と著作財産権の2つがあるのと同様に、実演家にも人格的利益の保護を目的とした「実演家人格権」と、財産的利益の保護を目的とした「財産権」の2つの権利があります。
実演家人格権は、「氏名表示権─実演に実演家名を表示する、またはしない権利」「同一性保持権─意に反して実演を改変されない権利」からなります。一身専属権であり、譲渡も相続もできません。かと言って自分の意思で放棄することも不可能です。実演家の死後は消滅します。著作隣接権者で人格権を持つのは実演家だけです。
実演家の財産権としては、許諾権として、録音権・録画権、放送権・有線放送権、送信可能化権、譲渡権、貸与権があり、報酬請求権として商業用レコードの二次使用料請求権が認められています。
「許諾権」であることが重要です。許諾権というのは若干伝わりにくい名称かも知れませんが、許諾はもちろん禁止も可能な権利であり、禁止権とも言うようです。許諾を得ずに実施してもお金で解決できる「報酬請求権」とは異なり、差し止め請求が可能な強い権利です。著作権法における著作隣接権とは許諾権を指しています。(報酬請求権は、実演家の権利ではあるが著作隣接権ではない)
〈レコード製作者の権利〉許諾権として、複製権、送信可能化権、譲渡権、貸与権/報酬請求権として商業用レコードの二次使用料請求権を持ちます。実演家とは異なり、放送権・有線放送権のような権利はありませんが、インターネットへのアップロードは送信可能化権に含まれます。
〈放送事業者の権利〉許諾権として、複製権、再放送権・有線放送権、送信可能化権、テレビ放送の公の伝達権を持ちます。
〈有線放送事業者の権利〉許諾権として、複製権、放送権・再有線放送権、送信可能化権、テレビ放送の公の伝達権を持ちます。
著作隣接権の侵害に対して、著作隣接権者は損害賠償請求だけでなく、前述のように差止請求ができます。予防措置を求めることも可能です。広告に関することでいえば、許諾を得ていない実演やレコードを利用したCMのオンエア中止や差し替え、事前差し止め、ポスターの掲出中止や回収などが該当するでしょう。
著作権法に定める刑事罰の規定は著作隣接権侵害に関しても適用されます。著作隣接権侵害もまた犯罪行為です。いくつかの罰則規定のうち、最も重いものは「10年以下の懲役」または「1000万円以下の罰金」となります。懲役と罰金を両方とも科すこともできます。さらに法人の代表者が、または、法人の従業者などがその法人の業務に関して、違反行為を行った場合は、最大で3 億円の罰金が法人に科せられます。これは個人と法人両方に科すことができる規定(=両罰規定)です。ただ親告罪のため、著作隣接権者からの告訴がなければ起訴はされません。
【Tips】著作隣接権も“禁止権"であり、侵害リスクは大きい
広告における著作隣接権の注意点
著作隣接権は権利者が限定的であるため、差し当たり実演と録音についてできる限り新たに行うようにすることでかなりリスクは軽減できると考えます。それでも既存の映像や音源でゆくのであれば、権利者を特定して許諾を得るための日程と費用を広告計画に折り込む必要があるでしょう。その際の留意点を記しておきます。
既存の音源をCMなどに使用する場合
既存の音源は「レコード」ですから、1968年以降に発行された(まだ発行されていなければ1968年以降に録音された)ものについてはレコード製作者の権利が存在します。実演を録音した物であれば実演家の権利も上乗せされます。著作隣接権は日本音楽著作権協会(JASRAC)の管轄外ですから、個別に許諾を得る必要があります。具体的には、CMなどを制作する際に複製の許諾をレコード製作者から、録音の許諾を実演家から得る必要があります。ただ、出来上がったCMなどを放送するにあたっては、許諾は不要です。レコード製作者にはもともと放送権がなく、実演家に認められている放送権は原則生演奏のみの適用となるためです。(注:一方で二次使用料が発生します。)さらに、インターネットへのアップロードについては、レコード製作者、実演家とも送信可能化権を持つため、双方の許諾を要します。
放送された映像や画像を広告等に使用する場合
テレビで放送された、スポーツやニュースといった著作物性が低そうな映像や静止画を広告使用する状況を想定してみました。このときは、仮に著作物とは認められないとしても、内容にかかわらず放送事業者の複製権が働くため、許諾が必要になります。
【Tips】リスク回避には撮(録)りおろしが有効/ありものを使うなら必ず許諾を
まとめ
著作隣接権という名称からは、著作権に付随する権利のように思われますが、著作権とは独立した権利だとされています。実際、著作権の切れた著作物についても著作隣接権は発生する可能性があります。さらには「実演家」「レコード製作者」「放送事業者」「有線放送事業者」の4者それぞれに、端から著作物が登場しない行為に関しても生じる可能性があること、ご説明した通りです。広告制作においても、著作権をチェックするのとは違った視点で、実演やレコードが作業に関わっていないか、点検することをお勧めします。著作権よりも領域は狭いが、著作権よりも簡単に付与され、著作権に匹敵するリスクを持った著作隣接権を侮るなかれ。