広告担当者のための著作権対策/基礎編

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広告担当者のための著作権対策/基礎編

広告制作に携わっている方ならば、「権利関係をクリアにする」といった言葉を一度ならず耳にされたことがあろうかと存じます。それは例えば肖像権であったり、タレント契約だったりいろいろありますが、なかでも著作権は一筋縄ではいかないうえに、しくじると結構な損失につながりかねない難しい問題、という印象です。本稿では著作権についてひと通り解説したのちに、具体的にはどのようなリスクがあるのか、それを軽減するために留意すべきことは何かについて説明いたします。

なおここでは、著作権の広い領域のなかから、著作者の権利である広義の著作権(著作者人格権および狭義の著作権)を対象としてできるだけ簡潔に述べようと思います。著作隣接権につきましては、機会がありましたらまたご説明できればと存じます。

著作権(最広義)───┬ 著作権(広義)┬ 著作権(狭義)
            └ 著作隣接権     └ 著作者人格権

著作権の基本ルール

著作権、著作者、著作物

著作権(広義)とは、著作者が有する権利です。著作者人格権と著作権(狭義)からなります。
著作者とは、著作物を創作する者です。
では著作物とは、「思想又は感情を創作的に表現したものであって、文芸、学術、美術又は音楽の範囲に属するもの」(著作権法第2条第1項第1号)とされています。この「創作的に」がなかなかに曲者で、著作物かどうかを判断する客観的な基準はないといっていいでしょう。そのため、「著作物であるか否かは“アルファでありオメガでもある”」(加戸守行『著作権法逐条講義 六訂新版』p.21より)とも言われています。

著作者人格権と著作権(狭義) 

著作者人格権は、「公表権:未公表の著作物を公衆に提供・提示する権利」「氏名表示権:著作物に著作者名を表示する、またはしない権利」「同一性保持権:意に反して著作物やタイトルを改変されない権利」からなります。一身専属権であり、譲渡も相続もできません。かと言って自分の意思で放棄することも不可能です。著作者の死後は消滅します。

著作権(狭義)は、一つの権利ではなく、支分権と呼ばれる具体的な11の権利の総称です。著作財産権とも呼ばれます。内訳は複製権*、上演権、演奏権、上映権、公衆送信権等、口述権、展示権、頒布権、譲渡権、貸与権、翻訳・翻案権等、二次的著作物の利用権となります。広告担当者の立場からは、印刷に関連する複製権、放送やインターネットに関連する公衆送信権等が特に重要でしょう。

こちらの権利は譲渡できますし、著作権を保持したまま、複製や演奏を許諾するという形で対価を得ることもできます。また、譲渡は一部だけでも可です。譲渡を受けた者は(著作者ではない)著作権者、ということになります。一方で放棄することもできるとされています。さらに相続もできますが、著作者の死後70年で保護期間が終了し、著作財産権は消滅します。

*余談ですが、英語で著作権を意味するcopyrightという単語は、もともと複製権を意味していました。著作権者をコピーライター[copyrighter]ということもあるようです。(広告文案を考えるコピーライター[copywriter]とは、スペルが違います。ややこしいですね)

著作権のライフサイクル
著作物の創作・・・著作権発生(著作者=著作権者)
▶︎著作権の譲渡・・・著作者≠著作権者
▶︎著作者死去・・・著作者人格権消滅
▶︎作者の死後70年が経過した次の年の1月1日・・・著作権消滅
  →著作者:著作者人格権を持つ
  →著作権者:著作権(狭義)を持つ

【Tips】著作者の権利は、著作者人格権と著作財産権

著作権の特質

例えば、著作者である作曲者から譜面を購入したとしても、その曲を人前で演奏できるわけではありません。楽譜という物体の所有権を得ただけのことです。楽曲を演奏するには、許諾を得るか演奏権の譲渡を受けるかする必要があるわけです。また、購入した楽譜はその後メモ用紙にしようが切り刻もうが購入者の自由ですが、楽曲は勝手に改変して演奏することは許されません。さらに、楽譜の場合は、その物が存在する限り所有権は継続しますが、演奏権は保護期間が過ぎれば消滅します。

所有権が、物体を対象とした、無制限に支配することのできる、無期限の権利であるのに対し、著作権は“創作的な表現”という形のないものを対象とした、制限付きの、いずれ消滅する権利ということになります。

著作権のように、形のないものを対象とする権利を無体財産権(=知的財産権、知的所有権)といいます。著作権以外の主な知的所有権(特許権、実用新案権、商標権、意匠権、回路配置利用権、育成者権など)が、いずれも登録しなければ発生しないのに対し、著作権は一切の手続きは不要で、創作された時点で成立します(「著作者人格権及び著作権の享有には、いかなる方式の履行をも要しない。」著作権法第17条第2項)。「無方式主義」といって、日本など170カ国余りが加盟している「文学的及び美術的著作物の保護に関するベルヌ条約」の規定に拠っています。

【Tips】著作権の特徴は、無方式主義の知的所有権であること

著作権侵害に伴うリスク

広告制作においては、まずは著作権侵害を起こすことを避ける対策が重要だと考えます。著作権侵害はリスクが大きく、広告そのものが中止に追い込まれてしまう可能性もあります。著作権侵害に関する具体的なリスクについて紹介いたします。

差止請求(著作権法第112条)

著作権者は、著作権等を侵害する者に対して、差止が請求できます。また、侵害するおそれのある者に対して予防措置を求めることも可能です。広告に関することでいえば、許諾を得ていない著作物を利用したCMのオンエア中止や差し替え、事前差し止め、ポスターの掲出中止や回収などが該当するでしょう。

損害賠償請求(民法709条)

故意又は過失による権利侵害によって生じた損害について、賠償を請求される可能性があります(=不法行為による損害賠償請求)。なお通常、侵害による損害額は請求する側が立証する必要があるのですが、著作権法には損害額を推定する規定が置かれているため、具体的な立証がなくても請求ができるようになっています(著作権法114条)。

不当利得返還請求

著作権侵害された著作物によって侵害者が利益を受けている場合は、その利益について返還するよう請求することができます(民法703条、704条)。
不法行為と異なり、侵害の行為者に故意又は過失がなくても請求が可能です。

名誉回復等措置請求(著作権法第115条等)

著作者は、「名誉・声望を回復するための措置」を請求することもできます(著作権法第115条、第116条)。
事実関係や謝罪文、訂正文を掲載した謝罪広告の出稿を請求されることが多いです。

民事上の主なリスクは以上ですが、著作権侵害に関しては、刑事罰の規定があります。つまり、著作権侵害は犯罪行為ということです。被害者が告訴することにより、刑事責任を追及される恐れもあります。

著作権侵害の場合、罰則は「10年以下の懲役」または「1000万円以下の罰金」となります。懲役と罰金を両方とも科すこともできます。

この、「10 年以下の懲役」又は「1000 万円以下の罰金」(懲役と罰金の併科も可)という罰則は、商法の特別背任罪(第960条)と同じです。同程度の罰則を持つ犯罪には、恐喝罪、詐欺罪、業務上横領罪(いずれも10年以下の懲役)、窃盗罪(10年以下の懲役または50万円以下の罰金)、不同意わいせつ罪(6月以上10年以下の懲役)などがあります。かなり重い罰則ではないかと感じますが、それだけではありません。企業などの法人等による侵害に対しては、「3億円以下の罰金」とされています。大変な額ですが、もちろん、損害賠償が認められた場合は罰金とは別に支払うことになります。さらに、個人と法人両方に科すことができる、両罰規定と呼ばれる規定になっています。

なお、著作権侵害は親告罪のため、著作権者からの告訴がなければ起訴はされません。親告罪とされているのは、著作権侵害の著作物かどうかを外形的に判断するのが困難な─権利者の許諾を得ているかどうわからない─ため、とされています。

【Tips】著作権侵害のペナルティは思いの外ハード

著作権侵害防止の基本

これまでに述べた様々な懸念点は、もちろん、頻繁に起こることではありません。しかしながら、著作権に対応する際は、大きなリスクをはらんでいるということを認識しておく必要があろうかと存じます。出演者の不祥事などによる広告の中止などは広告担当者にとって不可抗力の場合が多くなりますが、それと比較したらこちらのリスクはある程度軽減できるものだと考えます。ここでは、制作時に発生する可能性のあるリスクを整理し、簡単な対策を述べておきます。

広告制作時に既存の著作物を使用して、既存の著作物の権利を侵害してしまうリスク

これは、「著作権がまだ有効なのに著作権者の許諾を得ず、権利取得もしなかった。」「著作者が存命なのに著作者人格権をないがしろにした。」「著作権者が判明しなかったので見切り発車した。」といったケースが考えられます。対策としては、以下が考えられます。

著作権が消滅した著作物を利用する

既述のように、著作者の死後70年が経過した次の年の1月1日を以って著作権は消滅しますので、そのような著作物を利用するのが最も安全です。ちなみに2018年12月30日付けで、著作権の保護期間は、著作者の死後50年から70年に延長されました。ただ、その時点で消滅していた著作権が復活することはありません。結果として2023年現在、1967年以前に死亡した著作者の著作物は利用可能です。

著作権フリーの著作物を利用する

著作権フリーの著作物も安全といえば安全ですが、著作権を放棄しているのか、対価を受け取らないだけなのか、後者の場合の使用条件なども要確認です。また、著作者が存命の場合は著作者人格権は有効です。著作者人格権を行使しないことを表明しているものもあるそうですが、そうした表明がどこまで有効なのかは議論のあるところです。すぐに飛びつくことはせず、財産権人格権の双方向から検討するのがよいでしょう。

著作権者の許諾を得て、著作者人格権を尊重する

対価はかかりますが、最も正しい方法だと思います。

文化庁長官の裁定を受ける

著作権法第67条に、著作権者の不明その他の理由により相当な努力を払ってもその著作権者と連絡することができない場合は、文化庁長官の裁定を受けることで著作物の利用が可能になる旨の規定があります。見切り発車は厳禁です。

広告制作時に新たな著作物を創作して、既存の著作物の権利を侵害してしまうリスク

これは、わかりやすく言えば「パクり」です。著作権が存在する著作物を模倣して、類似のものを作成することによる著作権侵害のケースです。侵害かどうかの判断基準として、著作権が存在することの確認は当然として、依拠性と類似性があります。模倣して、実際似ているとなるとリスクは高まります。「誰それっぽいイラスト」「○○みたいな音楽」という依頼に対して、類似性の低いものが上がってくれば著作権侵害の恐れは低いですが、依頼には応えられていないことになってしまいます。対応としては、具体的な著作物に似せるような依頼をすることも、類似性の高いものを作成するのも自重するのがよいと考えます。

広告制作時に新たな著作物を創作して、新たな著作物の権利を侵害してしまうリスク

これは、新たな著作物を創作したものの、著作者と契約していた範囲外で使用してしまった、あるいは、著作者人格権をないがしろにした、などが想定されます。ポイントは、たとえこちらが発注した著作物でも、創作した瞬間から著作者に著作権が生じるという認識を持つことでしょう。対応としては、可能ならば著作権を買い取りにしたうえで、著作者人格権を行使しない旨の覚書を交わしておくのが─効力に関する議論はあるものの─リスクの軽減にはつながると思います。特に、初めて仕事を依頼する作り手に対しては、権利関係についてできる限りクリアにしておくことが重要です。

【Tips】著作権の有無、著作者人格権の有無は必ず確認

まとめ

広告制作において著作権などの権利問題については、制作サイドでことに当たるのが通例だと思います。ただ、ご紹介したように、一旦トラブルが起これば大きな損失を招きかねない分野ですから、こまめな確認と点検をお勧めします。あまり楽観的にならず、「許諾がなければコピー1枚とれない」くらいの認識でよいかもしれません。

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