「もらいました」は、動画クリエイティブのキーワード

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「もらいました」は、動画クリエイティブのキーワード

「つかの間の癒しをもらいました」
「いい話のネタをもらいました」
「久々におなか抱えて笑わせてもらいました」

SNSに投稿された動画のコメント欄の書き込みに「もらいました」という言葉をよく目にします。動画の提供者からすればなんとも嬉しいコメントですね。そんなコメントをいただけた方を見ると羨ましくもあります。

この「もらいました」、もし動画を活用したマーケティングを考えるなら、あながち見過ごせないキーワードではないか、と思うのです。「もらった」イコール視聴者が何らか「得をした」と感じたわけで、つまり動画視聴に価値が生じたことになるのですから。逆に動画を提供する側からすれば、視聴者が何かを「もらいました」と感じるように企画制作できるかどうかが、その動画クリエイティブの試金石になるかもしれません。そんなわけでここでは、この「もらいました」をキーワードに効く動画クリエイティブがどのようなものか、動画マーケティングの視点も踏まえつつ考えていきましょう。

動画「如き」から、何がもらえる!?

視聴者個人の目線で見直してみます。世間で大きな話題になった映画やドラマでも、動画サイトに月々の会費を払ってでも観たいと思うものもあれば、期待を裏切る駄作で、「ああ、時間の無駄だった」「見て損した」と感じる動画コンテンツも多々あります。また、他の人が絶賛していた動画でも、自分にとっては価値を感じなかったということもよく起こります。筆者はホラー映画が大の苦手で、お金を払って観る人の気が知れない、とすら思いますが、一方で大好きな人は夜な夜な震え上がりながら観ているのも事実でしょう。動画から「もらいました」があるかどうか、どんなものならもらって嬉しいかは、どうやら受け手である視聴者次第、のようです。動画の価値は、その動画の内容以前に、受け手側のプロフィールや趣味嗜好にも左右されるのです。

わかりやすい例だと、ゴルフのテクニックを伝授する動画はゴルフをやらない人には概して無価値だし、同じゴルファーでも「あの人の教え方はピンとこない」と感じる人もいるでしょう。新発売の車の乗り心地を説明している動画も、免許証のない人にはあまり価値がなさそうです。ひっくり返して見れば、それらの動画は一部の人には価値があった、もらうものがあったということになるわけで、動画の価値を考えるなら、まず「誰にとって」価値があるのか、に注目したいところです。プロの作る映画や番組は、あまり厳密にターゲットを限定せず、なるべく多くの人に「見る価値があった」と感じてもらうことを狙います。一方、娘や息子のヨチヨチ歩きを撮ったホームビデオは、遠く実家で孫の成長を楽しみにしているおじいちゃん、おばあちゃんだけが価値を感じてくれればよいわけです。

【Tips】誰に「もらいました」と感じて欲しいのか、まず設定する

「HHH(スリーエイチ)戦略」と「ステマ動画」

世界最大の動画サイト「YouTube」を傘下に持つGoogleが、動画マーケティングのコンテンツを設計する際のキーワードとして「HHH(スリーエイチ)戦略」を提唱しているのはご存じの方もいるでしょう。3H、すなわちヒーロー(Hero)動画、ハブ(Hub)動画、ヘルプ(Help)動画の頭文字で、商業動画を3つのコンテンツに分類し、それぞれのターゲットや役割を説明したものです。生活者がある商品やサービスを認知し、好感を持ち、ファンとなり、購入に至る…というプロセスの段階ごとに、適切な動画コミュニケーションのあり方を定義しています。
「HHH戦略」について詳細の説明は省きますが、概略を書きますと以下の通りです。

★ヒーロー(Hero)動画・・・自社の商品やサービスを知らない人の認知、感心を引き出す
 ターゲット=広く一般視聴者が対象(広範囲)

★ハブ(Hub)動画・・・自社の商品やサービスに好意や信頼を継続的に持ってもらう
 ターゲット=ファン、またはファンになってくれそうな人(中範囲)

★ヘルプ(Help)動画・・・自社の商品やサービスのユーザーに役に立つ、手助けになる
 ターゲット=ユーザー、または潜在ユーザー(狭い範囲)

動画クリエイティブをマーケティング視点で見るなら、このスリーエイチ戦略に照らし合わせ、伝えることのコミュニケーションの段階を見極め、その動画が「誰にとって」「どんな」価値を生むのかを意識しながら作ることで、より効果的な動画マーケティングが成立すると言えるでしょう。

補足ですが、昨今「ステルスマーケティング(ステマ)」が国政の場でも取り沙汰され、米国やヨーロッパなどの諸外国に続き日本においても2023年10月よりその規制が法制化されています。「消費者が広告かどうか見分けのつかない表示」を企業が直接間接に行うと景品表示法違反となります。サプリの効き目を絶賛する動画の制作・公開をユーチューバーに有料で依頼、というのは、ちょっと前まではよくある企業のマーケティング手法でしたが今は触法の可能性大、ということになります。法規制の観点だけでなく、その動画がステマであることが公になることで企業や商品の信頼を大きく失うことになりかねないので、注意が必要です。

【Tips】「もらいました」を感じてもらうには、ターゲットの設定が重要

機能的ベネフィットと情緒的ベネフィット

話を「もらいました」に戻しましょう。商品・サービスのブランド価値規定では、その商品の消費者にとっての「もらうもの=益(ベネフィット)」は、大きく「機能的ベネフィット」と「情緒的ベネフィット」の2つに分けられますが、動画の「もらいました」もこの2つに分けて考えられそうです。

「機能的ベネフィット」は、動画では多くの場合「情報としての価値」と言えます。ゴルフやヨガ、楽器演奏のハウツー動画などは機能的ベネフィットを前面に出した動画の典型でしょう。この他、料理のレシピ動画、電子機器やアプリなどのチュートリアル動画、さらに言えばテレビで日常的に流れるニュース番組や地方自治体からの広報動画なども、視聴者にとっての「もらいました」の主体は「情報」だと言え、「機能的ベネフィット」が際立った動画と言えるでしょう。

これに対して「情緒的ベネフィット」とは、冒頭にも紹介した「癒し」とか「笑い」とか、感情の動きを表す言葉で比喩的に表現される「もらいました」です。映画やドラマ、あるいはそれと類似の表現形式を持つストーリー性のある動画やCM、お笑い、バラエティ、スポーツ中継など「エンタテインメント」要素の強い動画が情緒的ベネフィットを前面に出した動画と言えます。もともと視聴者の本能は動画に「情緒的ベネフィット」を求めることが多く、動画の本来の得意技、とも言えます。

かつてインド映画は1本あたりの時間が長く、2時間以上のものが多数を占め、中には3時間越えも少なくありませんでした。これは映画鑑賞が国民の代表的な娯楽だというのが大きな理由と言われています。一度映画館に入場料を払って入った限りは、ミュージカルやお笑い、ラブロマンスにアクション、SFまで、なるべく多くのエンタテインメントを観たい、と思う観客の期待に応え、あらゆる要素を入れた長編映画が多く作られる、というのです。映画を芸術というよりエンタテインメントとしてその商業価値を試算していると言え、アメリカの向こうを張る映画大国らしい話ですね。映画はその動画視聴そのものに目的がありますが、動画マーケティングの場合、目的は商品・サービスの認知・関心・好感等なので、その動画で視聴者が感じた感動や共感は、これらの目的を達成する間接的な手助けになり、商品・サービスと生活者を近づけることとなるでしょう。

「もらいました」を生み出す動画クリエイティブとは

ここまで「もらいました」を「価値」「ベネフィット」という言葉に置き換え、「ターゲット」「役割」「機能と情緒」というファクターで動画を見てきました。Googleの「スリーエイチ」で言えば、「Hero動画」は「広く多くの人々」の感動や共感など「情緒的ベネフィット」を「もらいました」の対象として設定することが多く、対照的に「Help動画」はかなりターゲットを絞って「限られた人」への「機能的ベネフィット」を際立たせることが多いと言えます。「Hub動画」はその名の通りこの両者をつなぐ役割として、「情報によって共感を深める」とか「共感によって情報を伝わりやすくする」といった複合的ベネフィットを醸し出していたりします。マーケティング的に言えば、ファンとなってくれた視聴者が購入へと移行する「最後の一押し」的な役割を担う、大切なツールです。

さて、ここからは、企業や団体の商業目的、広報目的のための動画をどのように作っていけばいいか、「もらいました」をキーワードに考えてみます。

先ほどの「機能的ベネフィット」を訴求したい時、視聴者にとってその動画の価値はなべてシンプル・明快です。「上腕二頭筋を鍛える運動です」「今から30分以内の電話でさらに4,000円オフ」など、伝えたい情報をビジュアルのチカラも借りてストレートに表現することが視聴者にとってもメリットです。その動画の「もらいました」度は、ずばり視聴者の知りたかった情報なのかどうかが基準になるでしょう。

これに対して「情緒的ベネフィット」はやや複雑です。動画を広告・広報のツールとして発信したい企業はその発信の目的を設定していますが、多くの商業動画の場合、それはコミュニケーション自体の目的であって、動画表現上の価値(感動や共感)とは微妙に異なっていることが少なくありません。

例えば「高級車の乗り心地のよさを伝える」のが目的の動画のクリエイティブで、後部座席で寝てしまう子犬をビジュアルとして使うとします。そして動画の配信後、寝ている子犬が可愛い、と主に犬好きの人の間でバズったとします。視聴者からすれば、「子犬の可愛らしさにほっこりした気分をもらいました」「寝顔に癒しをもらいました」と素直に動画から情緒的ベネフィットを実感していますが、一見、本来の動画の目的とはズレてしまっているようにも見えますね。その場合でも、動画で何を狙うのかによっては動画として合目的的だと言えます。細かい機能説明よりもまずはこの車を認知し好感を持ってもらいたい、というのが目的の場合、たとえ免許証のない若者を中心にバズったのだとしても、本来のターゲット(この場合だと例えば「高年収」「40~50歳」とか)もそれなりに好感をもって受け止めていたならば…「癒しをもらいました」と感じる人が少なからずいたならば…成功と言えるでしょう。あとは、このイヌ動画の成功を受け、次のコミュニケーション…Hub動画、Help動画、あるいは他のメディアでのコミュニケーションにどうつなげていくかがポイントになっていきます。「イヌの安眠」の乗り心地を生んだ優れたサスペンション技術やシートの形状の説明だとか、乗り心地以外の特徴の訴求だとか。動画が評判になったからと言って、子犬だけが人気者になったのでは上手な商売とは言えないかもしれません。

このように、まずは新商品のブランド認知を図りたい時や、好感・共感を抱いてもらいファンの形成を狙いたい場合、情緒的ベネフィットに訴える動画は有効だといえます。ただ、情緒的ベネフィットを狙って動画を企画するのは決して簡単ではありません。その商品・サービスを取り巻く生活者の様々な状況に鋭く入り込む感覚が必要です。カギになるのは「生活者目線」。発信者側が「伝えたい」ことではなく、受信者側が「もらいたい」ものは何かを基準に発想することです。行き過ぎた宣伝メッセージが時に感動や共感の邪魔になることも忘れてはいけません。前述の「ステマ」は言うに及ばずですが、自己賞賛が過ぎたり、上から目線、陳腐化されたメッセージも視聴者を白けさせます。

企画を外部に依頼する場合は、その企画が生活者目線になっているかどうかを基準に判断することが大切に思えます。

【Tips】「もらいました」がわかりやすい「機能的ベネフィット」、複雑だがファン獲得に有効な「情緒的ベネフィット」

まとめ

動画は本来、人の情緒を動かすのが得意なコンテンツと言われます。

情緒を動かせるからこそ、そこに宣伝の下心があまりにも露骨に見えると逆に冷めてしまう。「なんだ、モノを売りたいだけか」と敬遠されてしまう。人の感情に入り込もうというコンテンツなので、作る側からするとさじ加減が難しいですね。

でもだからこそ、視聴者が「もらいました」と感じてくれる、コミュニケーション上の価値が高いコンテンツなのです。動画の情緒的「もらいました」獲得をある程度戦略的に目論みながら、さらに機能的「もらいました」とのコンビネーションで継続的なファンの獲得に結び付けていくようなマーケティングが、これからさらに注目されていくでしょう。

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